”非対称”金属錯体の開発
金属-ジチオレン錯体系分子性導体は,配位子のpπ電子と中心金属イオンのd電子とから成る複合電子系であり,金属イオン,配位子,
対イオン等の多くのパラメ−タでその電子物性を制御できるという特質を持っています。
結晶構造的にも従来の有機π電子系分子性導体には見られなかったユニ−クな分子配列を示すものが多く知られています。しかし,膨大な化合物の合成例が知られている有機π電子系分子性導体に比べ,その種類は未だ限られているのが現状です。これは,有機π電子系では極くありふれた「非対称分子」を合成・分離する手法が確立していないことが一因となっています。
我々は,二つの異なる配位子と結合した,いわゆる「非対称」な金属ジチオレン錯体分子を合成し分離・精製するための一般的な方法を見出しました。
反応そのものは単純です。2種の対称体(モノアニオン)をアセトン中で還流すると,配位子交換反応が進行し非対称体が生成します。非対称体は,HPLC(ODP, CH3CN-H2O)で容易に対称体から分離することができます。
この方法で,これまでに以下のような多数の「非対称」金属錯体を合成しました。
金属Mは,現在のところNiを中心に取り扱っていますが,PdやPtの場合も同様の方法が使えます。
下のグラフは,得られた「非対称」金属錯体の第1酸化還元電位E1と,第1と第2酸化還元電位の差ΔEをプロットしたものです。
前者はアクセプタ−(ドナ−)性の,後者は分子内ク−ロン斥力の目安と考えられています。つまり,電気化学的デ−タは,「非対称」金属錯体が,電子供与(受容)性や分子内ク−ロン斥力等において,「対称」体のほぼ中間に位置していることを示唆しています。さらに,これに構造的因子も加わりますから,「非対称」体の合成によって,ジチオレン錯体系分子性導体の多様性が大きく拡がると期待できます。
参考文献
R. Kato, Y. Kashimura, H. Sawa, and Y. Okano, Chem.Lett, 1997,
921.
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